Aloha 'Oe





 峰々に雨は誇らしく降り注ぎ、
 森をしっとりくもらせる。
 そうして、膨らみはじめたばかりの木々の芽を追うのかしら。
 そう、山手のpua 'ahihiのそれを……。

 白く、しっとりともやに包まれた木立のなかに、いままさに芽吹いたばかりの木々の芽が、はばたく瞬間を夢見ている……そんな光景を想像してみると、愛し、愛される喜びが、その空間に充満しているように思えてくる『Aloha 'Oe』。多くの楽曲を残したLili'uokalani女王の作品のなかでも、広く知られているもののひとつですが、「aloha 'oe……until we meet again」(さようなら、また会う日まで)という歌詞から別れの曲と語られる以上には、具体的な歌の背景は案外知られていないこの歌。実は、公にするにはちょっぴりスキャンダラス(?)な、女王の記憶に刻まれたあるエピソードがもとになっているようです。

(Hui)
 Aloha 'oe、Aloha 'oe……。
 深い森のなかに住まう薫り高き花よ。
 心のこもった抱擁(のあと)、私は家路につくのだけれど、
 また、きっと会いましょうね。

 「さようなら、森の奥深くに住まう香り高きあなた」(aloha 'oe, aloha 'oe, e ke onaona noho i ka lipo)……う~ん、なんというか、これ以上ロマンティックなシーンがあるだろうかと思うくらい,歯の浮くような別れのことばですが、そんなやりとりとともに交わされた熱い抱擁(a fond embrace)を女王が目にしたのは、1877年、Lili'uokalani女王が王位継承者に任命されたころのこと。顔見せおよび視察のために、女王一行がO'ahu島を旅した際に滞在したMaunawili*で、大歓迎を受けたEdwin Boydの牧場を後にしようとしたときのことでした。そのとき一緒だった女王の妹Likelike Cleghornが、Colonel James Boydと二人、別れを惜しんでいたというのですが……そう、Likelikeはすでに夫がある身。女王は名残惜しそうな妹をなだめすかし、次の目的地Ka*ne'oheへ向かったといいます。

 愛の記憶がよみがえってくる、
 (そうして)あの大切なひとときを反芻するのです。
 あなたこそが私の愛するひと。
 それで、いつもいつも思っているのです。

 美しい光景を目にしたことは周知のこと。
 (それは)Maunawiliのバラだってことも。
 そう、その(花のある)場所で、鳥たちはうっとり楽しんでいた……。
 新芽のみずみずしさに、いきなり魅了されたってわけね。
 
 女王の妹ならずとも,これはちょっと……と思われる先のエピソードには後日談があって、『Aloha 'Oe』もそのときにひらめいたもののようです。物語の続きは1878年、再び女王一行(Colonel Boyd、Likelike、女王の従者であるCharles B Wilson夫妻ほか)が、Nu'uanu Paliを越えてMaunawiliのBoyd牧場へ旅したときのこと。Honoluluへ戻ろうとしたときに、姿が見えなくなったColonel Boydの様子をみに引き返したLikelikeとCharles Wilsonが、今度はなんと牧場の若い女性と抱き合い、leiを受け取って別れを惜しんでいる現場を目撃してしまったというんですね。当然、Colonel Boydはバツが悪そうにしていたようですが、女王はそのとき交わされていた「また会いましょうね」といった約束や、Boydのさよならのことば(Aloha 'oe……until we meet agein)にメロディを付けて、いきなりハミングしはじめたんだとか。そうして、Honoluluまでの道中、女王ばかりかみなで口ずさんだりしながら、Washington Placeについたときにはすっかり楽曲は完成していた……という、そんな顛末だったようです**。
 なんというか、ありそうでなさそうな、でも妙に納得してしまうところもある、この歌にまつわるエピソード。女王自身が明言しているのではないにせよ、その場に居合わせたひとたちのコメントからすると、詳細はともかく、MaunawiliのBoyd牧場への旅と、Colonel Boydにまつわる抱擁を含むエピソードがもとになっていることは確かなのだと思われます。そして、なんだかなぁという印象はあるにせよ、Colonel Boydの軽さ(?)やLikelikeさんの奔放さも、なんとなく自由で正直すぎるところがいいなぁって感じですし、なにより、そんな愛すべきひとたちのふるまいを笑い飛ばさんばかりに、美しい楽曲に仕立ててしまう女王のおおらかさも素敵……。そんなLili'uokalani女王の人柄がにじみ出ているところが、別れの情緒以上に重要な気がしてきた、『Aloha ‘Oe』なのでした。

*:Waimanaloに隣接する,Kailuaビーチの山手のまち。
**:この楽曲については、類似したメロディが先にあったりすることから、女王が借用したのではないかという見方もあるようです。また、女王自身が『He Buke Mele Hawaii』を出版した際も、現在歌われているのとは別のメロディだったりとなんとなくあいまいなところがあったりもします。そんな、有名なわりに歌そのものの輪郭がはっきりしないのは、鼻歌をうたっているうちにできてしまった的な、この歌が誕生したときの状況によるところも大きいのかもしれません。

参考文献
1)Gillett DK: The Queen's Songbook-Her Majesty Queen Lili'uokalani. Smith BB ed., 1999, pp33-39
2)Kanahele GS: Hawaiian music & Musicians-an encyclopedic history. Honolulu, Mutual Publishing, 2012, pp18-21
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