Kauoha Mai







 私ったら、おもいっきり開けようとしちゃったわ。
 あなたんちドアのノブを……。
 (でも)なかからしっかり閉まってた。
 鍵がかかってたのよね。

 あれ!?閉まってる、どういうこと……? 固く閉じられてびくともしない扉を前に、一瞬、あたまが真っ白になってしまったひとの驚きがしひしと伝わってくる『Kauoha Mai』。せっかく会いにきたのにおかしいな?と思う暇もなく、どうも様子がおかしいことに気づいてしまったようです。

 私ったら(おもわず)のぞいてしまったの。
 そう、鍵穴のところから……。
 (そしたら)あなたの大事なお鼻が、
 (だれかさんに)なんどもキスされてたってわけ。

 鍵は閉まってるし、ドアをノックしても返事はないし……でも、なんとなくひとの気配がしたのかもしれません。それでつい、鍵穴からのぞいてしまったら、なんと彼が別の彼女といい仲になっているのを目撃してしまった……って感じでしょうか。タイトルの「kauoha mai」(来るようにいわれる)からすると、勝手に家まで訪ねて行ったわけではなさそうですし、そんなひどいことってあるんだろうか!?と思ってしまいます。もちろん、当の本人は怒り心頭だったはずですが、事実を淡々と語っているといった雰囲気の歌詞が、逆にそのショックの大きさを感じさせるところもあります。作者のLena Machado(1903-1974)は、友人が語ったエピソードを歌にしたようですが、もしかすると、自分自身のことではないからこそ距離をおいてことばにできた、なんてところもあったかもしれません。

 あなたがやったこと、
 愛のなさがわかるでしょう。
 (思い出すだけで)まぶたのところに、涙がにじんでくるわ。

 あなたがやったことを考えてみて。
 (こういうのを)ひとでなしっていうのよ。
 鍵はしっかりかかってた。
 (あなたが)おいでと言ったくせに……。

 ちょっぴりスキャンダラスで話のネタとしてはいいけれど、それをことさら取り上げたりするのはどうなんだろう……このあたり、モラルの問題としては意見がわかれるところかもしれません。そんな懸念を感じたのか、この歌を作ったLena Machadoも、mentor(指導者、助言者)として仰いでいた、Peterという人物に意見を求めたようです。「こういう歌って、ku*puna(年配のひとたち)にはよく思われないかしら?」と……おそらく、性にまつわるあまりよろしくない類のことをテーマとすることに、彼女自身にも迷いがあったんですね。そんな彼女に、Peterはきっぱり答えたようです。「大丈夫、古いmeleやchantをみてごらん。同じようなことが、きみが選んだのと同じことばで表現されてるのがわかるよ」。こうして彼は、いいことも悪いこともあったりするセクシャリティにまつわる経験を、生きることのすべてをいつくしむハワイアンの伝統的価値観にてらして表現するよう、背中を押してくれたわけですね。もちろんそれは、Lena Machado自身がその伝統を理解し、それを正しくハワイ語で表現できたからでもあったと思われます。それでもやっぱり、この歌を演奏し始めたころには、非難の手紙を受け取ることもあったといいます。そうして、ふたたび相談に訪れたLenaに、Peterは次のようにアドバイスしたようです。「近代的,西洋的価値観にとらわれているひとに、君のメッセージが伝わらないのは仕方ないさ。そんなひとたちのことは無視しといたらいい。彼らには、昔のハワイのひとたちがどんなふうに詩のなかに感情を表現したかなんて、理解できっこないんだから」。
 その一方で、彼女が気にかけていた「ku*puna」(ネイティブの年配の人たち)は、当初からこの歌を好意的に受け入れてくれたようです。とくに、観客が屋外でマットを広げて座るような、ごく小さな簡易の舞台で歌ったりする夕刻のステージだと、拍手喝采、あちこちから歓声があがる盛り上がりようだったといいます。そんな聴衆に向けて、Lenaは「この歌はあなたも私も理解できるものだと思う」と語りかけ、「あんなこと、こんなことがあったなぁ……なんて思い出すことが、きっとあるはず」と続け、ちょっとした身振り手振りも交えながら歌ったようです。そして、とくに反応がよかったのは、Laupa*hoehoeやWaimea(Hawai’i島)、Ha*na(Maui島)、Kalaupapa(Molakai島)、Wainiha(Kaua’i島)といった、谷に囲まれ市街地からも遠いところにあるような、ハワイのネイティブのひとびとがまだ多く暮らしていた地域だったとか……。米国化が進んだ時代にあって、そんな歌を通じての素朴な交流を地道に続けることは、世代を越えてハワイ的アイデンティティをつないでいくような、特別な意味を合いがあったのではないかと想像しています。

by Lena Machado(1934、1962 recordings)

参考文献
Motta P: Lena Machado-songbird of Hawaii-my memories of Aunty Lena. Honolulu, Kamehameha Schools, 2006, pp79-83
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