Ma*lama Mau Hawai'i






 風のただなかに立ち現れる、
 ハワイの(伝統を伝える)物語。
 それは(たとえば)Ka'ahumanuにまつわるものだったりする。
 Kamehamehaの精神が、大海原でずっと追い求めている(ような、そんな物語……)。

 (まるで)大地をやさしくなでるように、
 さわやかな風が心地よさを連れてくる(まさにそのときに)、
 深い思いとともに(その物語がこころを満たすのです)。

 遠く大海原を見わたせる場所で、気持ちのいい風の訪れとともに不意にわきあがってきた熱い思い。そのことばを超えたインスピレーションを、こころの赴くままにことばにしたような、解き放たれた精神と軽やかさを感じる『Ma*lama Mau Hawai'i』。そんなしなやかさの一方で、風によって(i ka makani)立ち上がってきた(ku*u a'e )とされる「ハワイの物語」(ka mo'olelo o Hawai'i)は、Kamehameha一世の妻として権力をふるったKa'ahumanu*にまつわるものだとされ、メロディだけからは想像もつかない、政治的なメッセージが含まれているに違いない……と予感させるところがあります。しかも、Kamehameha一世のこころ(ka pu'uwai o Kamehameha)がいまも追い求めている(hahai mau ana)ハワイ的な価値を、海をわたる風に(i ka moana)感じたわけですから、その風の訪れは、おそらく雷に打たれるような衝撃とともに、ある決意をもたらすものだったのではないか……なんてことも想像されます。そして、なんといっても問題なのは、作者のこころを一気に満たしてしまったという「ハワイの物語」(ka mo'olelo o Hawai'i)の意味するところ。そこのところの解釈が、なんといってもこのmeleの要の部分だと思われますが、とりあえず、ハワイ語の「mo'olelo」に含まれる、「物語」と訳したのではすくいとれない部分を表現するために、ここでは「ハワイの伝統を伝える物語」と訳してみました**。

 鳥が放たれる(ように不意によみがえる)、
 そんなハワイの物語がある。
 (それはたとえば)Lili'uokalaniにまつわるもの。
 ハワイの主権がずっと続くこと……
 (そうして)大地を間違いなく大切にするために、
 そう、Hawai'i(と呼ばれてきた)共同体(を存続させるために)……。

 ここでは、先のKa'ahumanuに続いて、ハワイ王朝最後の王、Lili'uokalani女王が登場します。Lili'uokalaniといえば、王朝転覆の際に国家反逆の罪に問われ、8カ月間幽閉生活を送ったという、いわばハワイが失った国家としての主権を象徴する人物***。つまり、ここで語られている「ハワイの主権がずっと続きますように」(mau ana ke ea o Hawai'i)という思いは、彼女の女王としての最後の願いであったわけですが、ここでは、それが続くことではじめて正しく守られるのがハワイの大地(ka 'a*ina)であり、それはとりもなおさず、「ka la*hui Hawai'i」(古代からHawai'iと呼ばれてきた共同体)を存続させることにほかならないと歌われている……とさらっと書いてしまうにはあまりに重いトピックであり、Kamehameha一世によるハワイ統一から、わずか1世紀足らずで「ハワイの主権」(ke ea o Hawai'i)が失われてしまった顛末を、いま一度ふり返らずにはいられない内容ではあります。

 正しさを伝える声に耳を傾けて、
 ハワイの島々よ。
 ハワイがずっと大切にされますように。

 ハワイがずっと大切にされますように(との願いを込めて歌います)……。

 さぁ、正しさを伝えることばに(i na* pono)耳を傾けて(ho*'olohe)……冒頭で風のなかに立ち現れるとされた「ka mo'olelo o Hawai'i」(ハワイの物語)が、ここでは「na* pono」(正しいこと、正義)と言いかえられていて、そのいわんとすることがやや明らかにされているような印象があります。もっとも、なにをもって正しいとするかは、文化の違いや政治的立場によって左右されるもの。「Ma*lama mau Hawai'i」(ハワイを大切に)と、きわめてわかりやすくまとめられていますが、あくまでも(ここで「ka mo'olelo o Hawai'i」と表現されている)ハワイの伝統に照らした「正しいこと」(na* pono)を、いまいちど感じ取ってほしい……というのが、作者の意図するところではないかと思われます。
 Kamehameha三世が残したとされる有名なことばに、「Ua mau ke ea o ka 'a*ina i ka pono」(王国の主権は正義によって永遠のものとなる)という一文があります****。『Ma*lama Mau Hawai'i』を読みながらこのことばが思い起こされたのは、王国としての主権があった時代の伝統を引き合いに出しているあたりが、Kamehameha三世のことばと響き合うためかもしれません。もっとも、王朝が消滅して久しい今日において、Kamehameha三世のことばの現代的な意味を考えようとするなら、いまの時代に即したことばに置き換えて理解する必要があるかもしれません。たとえば、ハワイの大地(が求めるところに従い)それを持続させるには、ハワイの伝統のなかにある正しさ(na* pono)に立ち返る必要がある、といった仕方で……*****。そんなふうに、これまでも、そしてこれからも、それがなんであるのかという問いとともにあり続けるのが、ハワイ的価値のひとつ「pono」(justice)なのかもしれない……なんてことを考えさせられた、古くて新しい『Ma*lama Mau Hawai'i』なのでした。

by William 'Awihilima Kahaiali'i

*:Kamehameha一世の寵愛を受け、彼の死後も、Kamehameha二世(Liholiho)、Kamehameha三世(Kauikeaouli)の後ろ盾として権力をふるった人物。
**:「Mo'o」(トカゲ類の名称)の部分に長く連なるという含みがあり、「mo'olelo」にも、単なる物語という以上に、歴史や民族の系譜といった意味合いがあります。また「mo'o」は、ハワイ文化において特別な位置づけにある生物で、ハワイの王族の系譜が、「Kahiki」からやってきた「mo'o」(雌の大トカゲ)の神、「Mo'oinanea」からはじまるとされる神話も語り継がれています。ちなみに、「Kahiki」(現在の「Tahiti」あたりのことであるとされる)は、ハワイのネイティブのひとたちの祖先が、古代にそこからハワイの島々にわたってきたとされる場所。
***:そのはじまりから、つねに欧米諸国からの政治・経済的圧力にさらされ続けたハワイ王朝の歴史ではありますが、なんといっても政治体制が劇的に変化したといえるのは、合衆国併合に向けた動きが加速したKala*kaua王の時代(在位1874-1891)ではないかと思われます。そしてそれは、米国寄りの政策を選択した王のもと、関税や土地利用の面でサトウキビ産業の振興が目指されるとともに、ハワイの自然やネイティブのひとびとの生活がないがしろにされた時代でもありました。Kala*kaua王自身も、資本の力で台頭し始めた米国派に骨抜きにされ、1887年の憲法改正(Bayonet Constitution)によって、法的にも実権を失います。彼の死後、Lili'uokalaniが王位を継承しますが、議会の暴走を阻止することができないまま、ハワイ王朝の転覆(1893年)に続くハワイ共和国の樹立(1894年)、1895年の女王逮捕・幽閉を経て、1898年の合衆国併合にいたります。
****:憲法が制定され(1840年)、首都機能がLahaina(Maui島)からHonoluluに移される(1845年)など、ハワイ王朝の政治体制が整ったとされているのが、Kamehameha三世(1813-1854、在位は1825-1854)の時代。憲法が登場する1840年以前には「kingdom」(王国、ハワイ語で「aupuni」)と呼ばれるものは存在しなかったとする見解もあります。
*****:参考文献3(Chun, 2011, p1)で、著者は「ke ea o ka 'a*ina」の部分を、「the sovereignty of the Kingdom」と「the life of the land」の二通りに訳しています。

参考文献
1)Klieger PC: Moku’ula, Maui’s sacred island. Honolulu, Bishop Museum Press, 1998, pp7-8
2)Osorio JK: Dismembering lahui-a history of the Hawaiian nation to 1887. Honolulu, University of Hawaii Press, 2002, pp145-173
3)Chun MN: No Na* Mamo-traditional and contemporary Hawaiian beliefs and practices. Honolulu, University of Hawai'i Press, 2011, pp1-13

※Mo'oにまつわるハワイ文化についてはこちら。

ハワイ語のはなし119
http://archives.mag2.com/0001252276/20160101123649000.html
ハワイ語のはなし127
http://archives.mag2.com/0001252276/20160512203000000.html
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