Ho'onanea








 (私の)胸で(顔をうずめて)、うっとり解き放たれること。
 鳥が花の蜜を求める(ような、その瞬間を夢見てる)。

 Ma ka poli iho no* 'o ho'onanea
 E ake inu wai a ka manu

 うっとり夢見るようなメロディに、なにかに心奪われたそのひとの、幸せに満ちた気分がふんわりただよう『Ho'onanea』。「(私の)胸で」(ma ka poli iho no*)*というフレーズに、抱きしめたい誰かの記憶をたどっているような雰囲気がありますが、鳥が(a ka manu)蜜を求める(e ake inu wai)と続くあたりは、恋の予感、あるいは、きたるべきなにかを待ちかまえているような、ほどよい緊張感があるように感じられます。

 私の(あなたを思う)気持ちはどんどんふくらんで、
 たったひとりの(さびしい)夜は、もうこころ穏やかではいられない。

 Hu* wale mai no* ku'u aloha
 Ku'u po* ho'okahi e naue ai

 月明かりが美しくあたりを満たす夜だもの。
 さぁ、私たち二人、ゆらゆら踊りましょうよ。

 'O ka pa* ko*nane a ka mahina
 Ahuwale na* lewa a ka*ua

 ひとりあなたを思いながらこころ乱れる夜。愛すること(ku'u aloha)がなければ知らなかったであろう、こころの痛みがともなうのもまた、恋……といったところでしょうか。そうして、待ちに待ったデートの夜。月明りのもとで寄り添う二人のシルエットは、少しずつお互いの距離を縮めながら、恋のダンスを踊るように、美しくゆらいでみえたりするのかも……そう、愛し合う二人だけに許される、特別なステージの序章みたいなものですね。

 そんな恋する気分があなたにも伝わったかしら。
 鳥が花の蜜を求めるように、恋いこがれるこの思いが……。

 Ha'ina 'ia mai ana ka puana
 E ake inu wai a ka manu

 こんなふうに、誰もが若かりしころの恋を重ね合わせてしまいそうな『Ho'onanea』。それもそのはず、Lena Machado (1903-1974)によるこの楽曲は、彼女がまだ少女だったころに、年上の女性たちから聞いた話をもとに作られたものなんだといいます。Honoluluでleiを売る女性たちと仕事をしていたLenaは、彼女たちが手仕事をしながら興じるとはずがたりに、じっと耳を傾けたようです。それは、彼女たち自身の体験談だったり、誰かから聞いた話だったり、ときにはそのどちらなのかも判別できないような展開をみせながら、Lenaの想像力をかき立てたんだとか。淡い期待からはじまって、月明りのダンスを経て訪れる、情熱的な愛のひととき。夢の成就は、鳥が渇きをいやし舞い上がる瞬間にも似て、あっという間の、でもだからこそ求めてしまう、幸せな熱病みたいなもの……。おそらくそんなことが語られたであろう大人たちの話は、若きLenaにとっては結構、刺激的だったかも(!?)と思いきや、のちにLena自身が語っているところによると、「(彼女たちの話は)細部を含みながらも詩的に表現されていて、強烈すぎたり、いやな印象を与えることはまったくなかった」といいます。そう、ハワイ語もまじえて語られる愛の物語について、思いあたるハワイアンソングをヒントにしながら、Lenaはイメージをふくらませていったんですね。おそらく、自分よりも上の世代の女性たちとの交流は、Lena Machadoにとっては、恋の手ほどきといった以上に、自らの経験を花、鳥、雨、霧といった自然の事物になぞらえて表現する、ハワイ語の世界独特の修辞法を学ぶ機会だったものと思われます。
 一方、大人たちはというと、ときに複雑な表情をみせる彼女に対して、「心配しないで、あなたも将来、経験したらわかることよ」なんていいながら、女性だけの時間を楽しんでいたようです。もしかすると、仕事とはいえ、手を動かしているうちに、昔こころ寄せたひとを思い起こしていたひともいたかもしれませんね。Leiといえば、手紙に思いをつづるように、美しい花々を連ねていく作業でもありますから……。そうして形作られながら、もはや行き場のない丸い連なりは、記憶のなかにしか存在しない物語のようにも思われます。そして、そんなleiメイキングの場で語られた思い出の数々が結晶化したこの歌は、いわばLena Machadoのハワイ的知性によって編まれた、ことばのleiだといえるのかも……。なんてことを気ままに思いめぐらせたりしながら、ハワイらしいコミュニケーションの伝統とともに、これからも愛され続けてほしい思う、『Ho'onanea』なのでした。

by Lena Machado(1933)

*:「Ma ka poli iho」には「私の」を直接的に意味することばは含まれませんが、方向詞「iho」は「~自身」(-self)や、空間的には話し手にほど近いところをあらわすことから、「私の胸で」と訳してみました。

参考文献
Motta P: Lena Machado-Songbird of Hawaii-My Memories of Aunty Lena. Honolulu, Kamehameha Schools, 2006, pp59-63
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