Waika*







 Kamehameha一世によって、ハワイの島々の勢力図がどんどん書き換えられていった18世紀末。この激動の時代に、彼といくさをともにした兵士たちを題材とするoli、『Hole Waimea』がまず作られ、後にその一部にメロディをつける仕方で誕生したのが、ラブソングとして知られる『Waika*』です。「あなたは(森に)出かけていくのですね」(ku* aku la 'oe)といきなりな感じで始まるのはそのためだと思われますが、切ないメロディが印象的なmeleだけに、兵士の物語といわれてもなんとなくピンとこないところがあったりします。そんな『Waika*』ですが、もとになったoliも参照しながら、そのイメージを膨らませてみたいと思います*。

 あなたはそこへ出かけていくのですね。
 Malanaiのやさしい風やKi*pu'upu'uが冷たく降るその場所に。
 Uliの'o*ha*waiの花は雨にうたれ、
 Koai'eの花もしおれてしまう。
 (そんなふうに)寒さに痛めつけられもする、
 Waika*の植物たち(を思う)。

 Ku* aku la 'oe i ka Malanai
 A ke ki*pu'upu'u
 Nolu ka maka o ka 'o*ha*wai a Uli
 Niniau 'eha ka pua o koai'e
 'Eha i ke anu
 Ka nahele a'o Waika*

 Malanai(の貿易風)とKi*pu'upu'uの雨にうたれ、Waika*の森で寒さに傷ついて('eha i ke anu)……「あなたは出かけていく」(ku* aku la 'oe)に続くだけに、この寒々しい森の描写は、寒さにふるえようにみえる植物たちだけでなく、その過酷な環境を自ら引き受けようとする誰かを連想させるところがあります。おそらく、彼こそが、もとになった『Hole Waimea』に描かれている兵士ではないかと思われますが、そんな彼の出自がわかるのが、ここに登場する雨の名前「Ki*pu'upu'u」。これはMaunakeaからWaimeaに吹きおろす冷たい風を指す固有名で、Waika*もWaimeaの山手にあり、まずは歌の舞台がHawai'i島の北西あたりであることがわかります。そして、このWaimea出身の兵士たちは、彼らの故郷に吹く風にちなんで、自らKi*pu'upu'uと名乗ったとされています。それにしても不思議なのは、一般的にHawai'i島では、貿易風がMalanaiと呼ばれることはないこと。そのあたりについて、生きたハワイ語は変化するという観点から解釈を試みているのが、今回おもに参照しているKi*hei de Silvaです。彼女によると、MalanaiはMa*lanaが訛ったものではないかといい、この推測が正しければ、1790年ごろにKi*pu'upu'uらとともに負け戦を経験した部隊の名前である可能性があるようです。だとすると、そのあとに続くしおれた植物たちの描写は、まさに戦いで傷ついた兵士の比喩でもあるということにもなりそうです。
 ちなみに、「Uliの'o*ha*waiの花」('o*ha*wai a Uli)と歌われるUliは、Waika*近くに位置する地域の名前。また、'o*ha*waiは、Emersonが注目した「水が流れ込む穴」のほかに、Pukuiの訳に登場する「loberia」(ロベリア、サワギキョウ)を意味することば。この植物は花びらが筒状をしており、ハワイ固有の鳥、ハワイミツスイたちがその蜜を好むことでも知られます。いずれも水がたまるくぼみのような形状をしていて、愛の営みに結びつきそうな裏の意味を思わせるところがありますが、どちらかというと、Pukuiが採用した植物のほうが、恋人たちのイメージが広がるような気がします。一方、これに続く「koai'eの花」(ka pua o koai'e)は、現在はわずかしか見られないものの、かつてはWaika*をはじめKohala地域の山の斜面に茂っていた植物で、繊細なふわふわした丸いクリーム色の花を咲かせ、それがKi*pu'upu'uの雨にうたれる光景といえば、Waika*あたりの森の代表的なものだったとされます**。
 こういった植物の描写が、兵士たちを描写しつつ裏の意味を重ね合わせたものだとしても、なぜ森なのか?という疑問は残ります。そして、このあたりを知る手がかりは、当時の戦いをめぐるある事情にあるようです。兵士たちがそもそも森に集められたのは、より強い軍勢を必要としたKamehamehaの求めに応じてのことでした。彼は、12,000人もの若いWaimeaの男たちが、ランナーとしてトレーニングされていることを耳にし、やがて彼らを自らの兵力として統率し始めます。そんな彼らがまず求められた任務が、Waika*にもほど近いMahikiの森で、戦いの準備として槍を作ることだったんですね。命じられた森での任務を遂行するなか、次第に兵士たちのKamehamehaへの忠誠心がいや増して、その思いがoliとして表現されるに至ったのが、『Waika*』のもとになった『Hole Waimea』というわけです。このoliは、のちにhulaをともなってパフォーマンスされるようになり、Kamehamehaの軍勢が赴く先々で披露されることも多かったことから、今日まで伝えられるに至ったようです。

 Waika*よ、応えておくれ、(たとえば)恋人のような(ささやきで)。
 Ko'olauのあの黄色い花のように。
 Mahuleiaの森に育つ花。
 (あなたは)Mo'olauをあちらこちらと訪ねるのですね。
 高い峰を越えていく旅(は、幾多の困難をともなうもの)。
 それもまた愛……いや、それこそが愛。
 (愛と呼ばずにいられないもの(を、ひとは愛と呼ぶのだから)。

 Hui:
 Aloha Waika* ia'u me he ipo la*
 Me he ipo la* ka maka lena o ke ko'olau
 Ka pua i ka nahele o Mahuleia
 E lei hele i ke alo o Mo'olau
 He lau ka huaka'i hele i ka pali loa
 A he aloha e, a he aloha e*
 A he aloha e, a he aloha e*

 「Waika*よ、私を愛しておくれ」と訳せないこともない「aloha Waika* ia'u」ですが、Waika*は森の名であることをふまえて、ここでは「あいさつする」という意味で訳してみました***。
 このhuiの部分では、繰り返される「he aloha e*」(愛と呼ばれるもの)というフレーズがなにより印象的で、それを何と捉えるかで、この作品全体の解釈が分かれるところだと思われます。もとになった『Hole Waimea』が、Kamehamehaに対する兵士たちの思いを表現すべく作られたものであることを考えると、まずは彼らが忠誠を誓った大将へのalohaを挙げたいところですが、Waika*の森に向けて呼びかけている時点で、その思いが、なにか別の対象を求めてさまよっているような印象もあります。寒さに凍えつつ槍を削りながら、兵士たちがなにを思ったのかはわかりませんが、武器は敵を的として射られることもあれば、恋する相手のこころ(ときには体)をめがけて放たれることもあります。ちなみに、ここに登場するMo'olauは、MahikiやWaika*の近隣の地名であるとともに「女性」を意味することばでもあり、それを受けてEmersonは、女性の胸の意味が重ねられていると解釈しています****。この読みはいささか飛躍がありすぎるような気もしますが、『Waika*』にはない『Hole Waimea』の締めくくりの数行を読むと、いかにもと納得させられるところがあったりします。

 たまらなく繊細になっていく、森にほど近いところ(によくある自然そのものというか)。
 そこにぼくの大切に思う場所がある。
 (そして)そこは、あなたの愛がぼくのこの思いに届くところでもあって……。
 (それにしても君は)どこに隠れているんだろう?

 こんなふうに、深い森の描写からどんどんイメージがふくらんでいき、読み手自身もその薄暗い茂みに迷い込みながら、その空間をさまようことが、絶望どころかある喜びさえともなっていることがなんとなくわかってくる『Waika*』。唯一の正解はなく、その読みは多分に受け手にゆだねられているのがハワイ語の世界のkaona(複数の意味の重なり)であり、無限の可能性に開かれているところが、時代を越えて読み継がれる作品のよさでもある……そんなことをあらためて考えさせられる一曲でした。

参考文献
1)Emerson NB: Unwritten Literature of Hawai’i-the sacred songs of the hula. Honolulu, Mutual Publishing, 1998, pp68-69.

*:『Hole Waimea』については『Unwritten Literature of Hawai’i』(Emerson、初版は1909年)でも、ロマンチックな恋の歌として取り上げられています。ですが、Emersonの解釈には、原文の裏の意味だけがクローズアップされている傾向があり、「ハワイ語そのものの豊かなイメージをとらえ損ねている」(Pukui MK)といった指摘もあります。そのあたりをふまえて、ここでは、Pukui的な立場から『Hole Waimea』を読み直そうとするKi*hei de Silvaの論考を参考にしています。
※Ki*hei de Silvaの解釈による『Hole Waimea』はこちら
https://apps.ksbe.edu/kaiwakiloumoku/kaleinamanu/he-aloha-moku-o-keawe/hole_waimea
**:このkoai'の花について、Emersonは、身体のデリケート(かつプライベート)な部分の意味を含み持っていると解釈しています。
***:このあとに描写される「ko'olau」は「ko'oko'olau」のことで、ハーブティーとして用いられることもある植物。
****:Mo'olauは、火の神Peleに命じられて旅をしたHi'iakaが、大トカゲとバトルを繰り広げたと言い伝えられる場所でもあります。
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