Matsonia







 私のあのひとが遠くへ行ってしまう。
 Matsonia号に乗って……。

 Ke lawe ‘ia ala ka’u aloha
 Ma luna o ka moku Matsonia

 赤ん坊も眠りやしない。
 私はわびしい気持ちでもぬけのからって感じ。

 Hui
 Ku'u pe*pe* moe 'ole nei
 Anu wau a ma*e'ele nei nui kino

 ふと口をついて出たメロディに、ある日、あのときの気分をのせて歌ってみたような、独特の雰囲気がある『Matsonia』。Matsoniaは、1920年代初頭から1950年代まで、ハワイと合衆国をつなぐべく運航していたという、Matson Navigation Companyの蒸気船、Matsonのハワイ語名*。その船に乗って、私の大切なひと(ka’u aloha)が、しかも遠くへ運ばれて行ってしまう(ke lawe ‘ia ala)……というわけで、まさに今生の別れ的な、切羽詰まった状況が想像されるのですが、おそらくパートナーと思われるひとを、「ku’u」(私の愛する)ではなく、「ka’u」(私の)と呼んでいたりもして、「私のだんなが」と訳したくなるような、微妙な距離も感じられます。そして、いきなり、いとしい赤ちゃん(ku'u pe*pe*)の登場……眠りもせずに(moe 'ole)ぐずっているのは、さむざむしい思いで(anu)こころ乱れ、全身が無感覚(ma*e'ele nei nui kino)という、放心状態の母親の異変を察知してのことかもしれません。

 あなたは、やって来たと思ったらもう行ってしまうのね。
 で、私はといえば、ひとりで悶々とするしかないなんて。

 Ua hiki no* ‘oe a e hele ana
 A na’u no* ia e ’oni ho’okahi

  あなたのことを愛してきたのは,この私なのよ。
 (なのに)あなたったら私にこんな仕打ちをするなんて。

 'O wau kai aloha aku ia* 'oe
 Pe*ia ka* 'oe la* e hana mai ia'u

 やって来たと思ったら、もう行ってしまうなんて(ua hiki no* ‘oe a e hele ana)……いい仲になって、子どもが誕生した喜びもつかのま、ひとりきりで込み上げてくる悲しみや怒りを持て余している私(na’u……e ’oni ho’okahi)。あなたを愛している私('o wau kai aloha aku ia* 'oe)だからこその恨み節であることを思うと、「それってあなた、あんまりじゃないの」(pe*ia ka* 'oe la*)といいたくなるのも無理はないって感じです。

  (もしやと思って)私、町中を探し回ったわ。
  (でも)あなたらしきひとはもういなかった。

 Ka'apuni ho'i au puni ke kaona
 'A'ohe a he lua la* e like me 'oe

 大人たちはやさしくなぐさめてくれる。
 涙とともに悲しみを語るように。

 Aloha e* ka leo a'o ka ma*kua
 I ke kaukau mai me ka waimaka

 町中を(puni ke kaona)歩きに歩いて探し回ったけれど(ka'apuni ho'i)、あなたらしきひとの手がかりはなかった('a'ohe a he lua la* e like me 'oe)……この箇所からは、その誰かがなんの前触れもなく、いきなり船に乗り込んで行ってしまったことがうかがわれます。半狂乱状態で、まちをあちこち尋ね回ってわかったことは、あのひとがすでに陸にはいないということだった……。そんな、もう悲しみにくれるほかない彼女に対して、大人たち(ka ma*kua)は、深い共感の気持ちで(aloha)接してくれたようです。「Ka leo」(声かけ)とだけあって具体的には語られていませんが、「kaukau」は亡くなったひとを弔うことばだったりすることから、ともに涙しながら(me ka waimaka)「あんな男のことは(死んだものと思って)忘れなさいよ」みたいな仕方でなぐさめたのではないかとも思われます。

 私のこの思いが伝わったかしら。
 Matson号があのひとを連れて行ってしまったの……。

 Ha'ina 'ia mai ana ka puana
 Ma luna o ka moku Matsonia

 内容をわかってあらためて聴くと、脱力しきったようなメロディの物憂げな感じが、パートナーに去られた彼女のあきらめや、途方に暮れる姿そのものにも思えてきます。意外なのは、一人称で歌われるこの歌が、実は作者が自分の娘のために作った楽曲らしいこと。あきれはてた感じが随所にみられることや、ちょっと突き放したような距離感は、なんとか娘を励まそうと、深刻ぶらずに歌ってみた結果なのかもしれない……なんてことを想像したりしながら、沖へ向かうMatsoniaをみるたびに、こころの痛みを反芻したであろう彼女の生涯を思わずにはいられない、そんな『Matsonia』なのでした。

by Leialoha Kalaluhi

*:米国の海運大手、Matson Navigation Company(本社・ハワイ州ホノルル)とハワイとの関係は、1882年、William Matson船長が、3本マストの帆船Emma Claudinaで、サンフランシスコからハワイ島Hiloまで航海したことに始まります。300トンの食糧、農場で必要な物資、日用品などさまざまな商品を運んだという最初の航海をきっかけに、長年、メインランドの太平洋岸地域とハワイ間の物流を担い今日に至ります。

Matson
https://www.matson.com/corporate/about_us/history.html
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